「アンバー」という言葉は、フレグランスの世界では少なくとも三つの異なるものを指す。天然のアンバーグリス、ラブダナムを中心とした植物性アンバー、そして合成のアンブロキサンやイソEスーパー。それぞれが香りに与える効果はまったく異なり、混同すると素材の選択を誤る。
アンバーグリスとは何か ¶
アンバーグリスは、マッコウクジラの消化器官で生成される分泌物が、長年海を漂ううちに酸化・熟成したもの。海岸に打ち上げられたものを採取する。現在は入手が非常に困難で、信頼できる供給元からのチンキ(アルコール抽出液)が主に使われる。Ambre Gris Soirに使用しているのは、モロッコの業者から仕入れた天然アンバーグリスのチンキで、5%濃度のものを少量使用している。
植物性アンバー:ラブダナムの役割 ¶
ラブダナムは、地中海沿岸に自生するシスタス(岩バラ)の樹脂から得られる。甘く、バルサミックで、かすかに動物的な印象を持つ。アンバーグリスが入手困難になった20世紀以降、多くの調香師がラブダナムをアンバーの代替として使い始めた。ただし、アンバーグリスとラブダナムは香りの質感がまったく異なる。ラブダナムはより重く、アンバーグリスはより軽く、肌に溶け込む感覚がある。
合成アンバー素材:アンブロキサンとイソEスーパー ¶
アンブロキサンはアンバーグリスの主要成分を合成したもので、現代のフレグランスに広く使われる。イソEスーパーはシダーウッドに似た木質感とアンバー的な温かさを持つ合成素材。Mystica Amber Glenでは合成ムスクと合成アルデヒドは使わないが、イソEスーパーについては素材の透明性を確認した上で、ごく少量使用することがある。使用する場合は成分表に明記している。
素材の選択が香りの質感に与える影響 ¶
天然アンバーグリスを使った香りは、肌の上で「溶ける」感覚がある。体温と反応して変化し、つけた人によって微妙に異なる印象になる。これは合成素材では再現しにくい性質だ。一方、合成アンブロキサンは安定性が高く、どの肌でも同じように発香する。どちらが優れているかではなく、何を求めるかによって選択が変わる。
Ambre Gris Soirにおける素材の使い方 ¶
Ambre Gris Soirでは、天然アンバーグリスのチンキをベースの最後に加える。フランキンセンスとモロッコ産ローズアブソリュートが先に構造を作り、アンバーグリスはその上に静かに乗る。主役ではなく、全体をまとめる役割。この使い方は、父Henriの1973年の調香ノートに「アンバーは声を上げない」と書かれていたことから着想した。
アンバーを含む香りを実際に試してみたい方には、Ambre Gris Soirのサンプルをサンプルセットに含めています。素材の説明を読んだ後に嗅ぐと、また違う印象があるかもしれません。